筋肉の量や握る力を保つことは、パーキンソン病とどう関わるのでしょうか。2024年に発表された遺伝子の研究が、ひとつの手がかりを示しました。
握る力や筋肉量が多い傾向を持つ方ほど、長く薬を続けるうちに起こることのある「ある症状」が、起こりにくいという関連がみられたのです。
ただし、この研究は「筋肉を鍛えれば防げる」と証明したものではありません。ここを取り違えないことが、いちばん大切です。この記事では、この研究が何を示し、そして何を示していないのかを、読み解いていきたいと思います。
そもそも、何を調べた研究なのか
今回の研究が見つめたのは、レボドパ誘発性ジスキネジア(LID:levodopa–induced dyskinesia)と呼ばれる症状です。パーキンソン病の代表的な飲み薬であるレボドパを長く使ううちに、自分の意思とは関係なく体が動いてしまうことがある症状で、長く薬を続けている方に起こりやすいものです。ふだんは主治医が、薬の種類や量を調整しながら付き合っていきます。
研究チームは、この症状と、筋肉の状態との関係に注目しました。加齢などで筋肉の量や力が少しずつ減っていく状態を「サルコペニア」と呼びます。握る力の低下や、腕や脚の筋肉量の減少が、その目安です。今回は主に、握る力と筋肉量が手がかりとして使われました。
そして、その関係を調べるために選ばれたのが「メンデルランダム化」という方法です。生まれつき決まっている遺伝子の違いを利用して、単なる偶然の重なりではなく、「どちらが原因で、どちらが結果か(因果関係)」を正しく見極めるやり方です。この方法の「できること」と「できないこと」が、今回の結果を受け止めるうえでとても重要になります。この点は、記事の後半で詳しく触れます。
遺伝子が示した、3つのこと
この研究では、握る力や筋肉量に関わる大規模な遺伝子データと、パーキンソン病の遺伝子データを組み合わせて、両者の関係が調べられました。見えてきたことは、大きく3つです。
1. 「握る力・筋肉量が多い傾向」と、薬の症状の起こりにくさがつながっていた
握る力が強い、あるいは腕や脚の筋肉量が多いという遺伝的な傾向を持つ方ほど、レボドパ誘発性ジスキネジア(LID)が起こりにくい、という関連がみられました。とくにはっきりしていたのは、利き手の握る力です。日々の暮らしのなかで何気なく使っている「握る」という動作の背景に、こうした体の状態が映し出されているのかもしれません。ただし、これは「握る力が症状を直接減らす」と決まったわけではなく、あくまで両者に関連が見られた、という段階の発見です。それでも、これまで見過ごされがちだった、筋肉と薬の症状とのつながりに光を当てた点で、注目に値します。
2. 発症のしやすさや進み方とは、はっきりした関連はなかった
一方で、筋肉の状態と、パーキンソン病そのものの発症のしやすさ、もの忘れ(認知機能の低下)、運動症状の進み方との間には、はっきりした関連はみられませんでした。つまり、今回関連が示されたのは、あくまで薬にともなう特定の症状に限られる、ということです。「筋肉を保てば病気そのものが進みにくくなる」といった広い話には、まだ届いていません。研究が「何を示し、何を示していないのか」を切り分けて見ることが、こうした情報と落ち着いてつきあうための第一歩になります。
3. 「なぜつながるのか」の手がかりも見えた
研究チームは、握る力に関わる遺伝子のはたらきそのものも調べています。すると、脳の神経どうしのつなぎ目(シナプス)を調整する仕組みと、重なりが多いことがわかりました。この神経のつなぎ目のはたらきのバランスが、体が勝手に動いてしまう症状に関わっていると考えられています。握る力と、脳の中で起きていることが、思いがけないところでつながっている可能性がある——そんな示唆です。ただし、この症状が起こる仕組みは、まだ完全には解明されていません。今回わかったのは、あくまで手がかりのひとつであり、これから確かめられていく段階だと受け止めておくのがよさそうです。
“関連あり”を、どこまで信じてよいか
ここが、今回いちばんお伝えしたい部分です。同じ「関連がある」という話でも、どんな方法で調べたかによって、受け止め方は変わります。
今回のメンデルランダム化という方法は、生まれつきの遺伝子の違いを使うため、ふつうの観察研究(生活習慣などをただ見比べる研究)よりも、「どちらが原因でどちらが結果か」という取り違えを起こしにくい、という長所があります。その意味で、単なる見かけの関連よりは、一歩踏み込んだ手がかりだといえます。
しかし、この方法が見ているのは、あくまで「生まれ持った遺伝的な傾向」です。「今から筋肉を鍛えたら、症状が変わるかどうか」までは分かりません。それを確かめるには、実際に運動をするグループとしないグループを比べる「比較試験」が必要になります。今回の研究は、その手前の段階にあるのです。
さらに、今回の関連は、主に利き手の握る力に支えられていました。反対の手では、調べ方によって結論が分かれる場面もありました。言いかえれば、どの角度から見ても揺るがない、とまで言い切れる結果ではない、ということです。だからこそ、これからの研究で、さらに確かめられていく必要があります。
こうして位置づけを確かめると、この研究の価値と、慎重に見るべき境目が、両方はっきりします。希望はあります。でも、誠実に受け止めることが大切です。
“筋肉を大切に”を、正しく受け取る
では、この研究を、日々の暮らしのなかでどう受け止めればよいのでしょうか。
まず、この研究は「筋肉を保てば症状を防げる」と約束するものではない、という前提を忘れないことです。過度な期待も、逆に「筋肉が減ったらどうしよう」という不安も、どちらも今の段階では行きすぎになります。
そのうえで、筋肉を保つこと自体には、この研究とは別に、すでに確かな良さがあります。転倒を防いだり、毎日を元気に過ごしたりする力になります。今、運動を続けている方は、その手ごたえを大切に、自信をもって続けていただければと思います。食事の面では、肉・魚・卵・大豆製品など、たんぱく質を意識してとることも、筋肉を保つ助けになります。
そして、握る力などの体の変化は、ご自身で気づける身近なサインでもあります。気になる変化が続くときは、主治医に相談し、一緒に見守っていきましょう。お薬の調整は必ず主治医と行い、自己判断で変えないようにしてください。
握る力や筋肉量という、私たちにとって身近なものが、パーキンソン病とどう関わるのか。今回の研究は、それを遺伝子の面から照らしてくれました。まだ入り口の段階ですが、「筋肉を大切にすること」に前向きな意味を感じられる、そんな知らせだといえそうです。
参考論文:Wang T, et al. Exploring causal effects of sarcopenia on risk and progression of Parkinson disease by Mendelian randomization. npj Parkinson’s Disease. 2024;10:164. https://doi.org/10.1038/s41531-024-00782-3
※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。