ピック
長野県内の4地区で、パーキンソン病のある方に向けたボクシング型の運動プログラムが月2回開かれています。立ち上げたのは、在宅リハビリに携わってきた理学療法士。「進行してから出会うことが多かった」という問題意識から生まれた場です。この取り組みの中身と、ボクシング型運動の科学的な現在地を整理します。
元記事:MGプレス(2026年9月1日)/記事を読む
報じられたこと
- 長野県内4地区で「ロックステディボクシング(RSB)長野」が月2回のエクササイズを開催。7月中旬の松本市の会場には、当事者とご家族あわせて12人が参加した
- 代表は理学療法士の椎大亮さん(55)。長野市の病院で在宅リハビリなどを担当していた
- 「診断された早い段階での運動と継続が大切だが、自分で運動をと言われても方法がわからない人が多い」。そこで、早い段階から運動できる場をつくろうと考えた
- 2020年にRSB認定ヘッドコーチの資格を取得し、「RSB長野」を長野市で発足。移動が難しい方にも配慮して県内4地区に会場を分けている
- 内容はグローブをつけてミットを打つ練習のほか、棒を使ったストレッチ、音楽に合わせてステップを踏むダンスなど。膝が曲がりやすい、股関節が硬くなりやすいといった、リハビリの現場で得た視点も指導に反映されている
- 課題は会場の確保。体温調節が難しい方もいるため、空調・十分な広さ・駐車場を備えた会場を各地区で定期的に押さえることが難しいという
参加者の方のお名前や問い合わせ先は、元記事に掲載されています。
そもそもRSBとは
ロックステディボクシング(RSB)は2006年、米国インディアナポリスで生まれたプログラムです。40歳でパーキンソン病と診断されたScott C. Newman氏が、元ゴールデングローブ選手の友人Vince Perez氏とともに、相手を打たない非接触型のボクシング練習を始めたことが起点でした。のちにプロボクサーのKristy Rose Follmar氏が加わり、指導カリキュラムとして整えられています。現在は米国内および複数の国に提携ジムが広がっています。
出典:Rock Steady Boxing 公式サイト
ここは、まだ言えない
元記事には「運動機能の改善やバランス感覚の向上、反射神経の強化などの効果が認められる」「慢性的な神経炎症を減らし、パーキンソン病の進行を遅らせる可能性もある」という記述があります。ただし研究の現状は、もう少し込み入っています。
研究者の評価は割れています。2024年に発表されたメタアナリシス(13の研究を統合したもの)では、移動能力・バランス・運動症状・歩行・心肺機能のいずれについても、ボクシングによる統計的に意味のある効果は確認されませんでした。生活の質(QOL)についても有意な差は出ておらず、著者らは「エビデンスは依然として不確実である」と結論づけています。
一方、2025年に発表された別のシステマティックレビュー(13の研究・402人が対象)は、中等度の質のエビデンスとして、下肢の筋力・バランス・移動能力・歩行・抑うつ・QOLの改善、そして安全性と継続率の高さを支持しています。
評価が分かれる主な理由は、研究の多くが小規模で、ランダム化されていないことです。比較的よく引用されるランダム化比較試験(2013年)でも、参加者は31人という規模でした。
また「神経炎症を減らして進行を遅らせる」という説明は、動物実験や予備的な研究にもとづく仮説の段階です。運動によって病気の進行そのものを遅らせられると、ヒトで証明された段階には至っていません。
つまり、現時点では「ボクシングだから特別に効く」とまでは言えない、というのが正直なところです。
当事者にとっての意味
検討する価値あり
一方で、運動そのものがパーキンソン病に有益であることは、多くの研究を統合したレビュー(コクラン・レビューを含む)で支持されています。争点は「運動に意味があるか」ではなく、「ボクシングという形式に上乗せの効果があるか」です。
ですので、こうしたプログラムを検討する価値は十分にあります。ただし選ぶ理由は「ボクシングだから」ではなく、「早い段階から、安全に、続けられる形で運動できる場だから」と考えるのが実際的です。
参加を考える場合は、転倒のリスクをどう見るかが要点になります。とくにバランスに不安がある方、姿勢を保ちにくいと感じている方は、事前に主治医または担当の理学療法士にご相談ください。プログラムの強度や内容が、いまのご自身の状態に合っているかを確認したうえで始めるのが安全です。
監修者の視点|白石哲也(認定理学療法士・神経筋障害領域)
この記事で私がいちばん注目したのは、椎さんの「パーキンソン病の方と関わる頃には、病状が進行しているケースが多かった」という一言です。リハビリの現場にいる人間なら、ほぼ全員が抱えている実感だと思います。日本ではパーキンソン病のリハビリが「動きにくくなってから」始まることが多く、診断直後の時期に運動できる場そのものが不足しています。
エビデンスの観点では、先ほど述べたとおり、ボクシングが他の運動形式より優れているという結論は出ていません。ただ、リハビリで最も難しいのは「続けること」です。楽しさがあり、同じ立場の仲間がいる環境は、その最大の壁を確実に下げます。この取り組みの本質は、そこにあると私は考えています。
運動プログラムを選ぶときに見ていただきたいのは、種目の名前ではなく次の3点です。
運動プログラムを選ぶときの3つのチェックポイント
- 十分な強度があるか
軽く体を動かすだけでは足りません。少し息が上がるくらいの負荷がかかっているかを確認してください。 - 楽しく続けられるか
効果があっても続かなければ意味がありません。「また行きたい」と思えるかどうかが、最も現実的な判断材料です。 - 安全に管理されているか
転倒への配慮があるか、体調に応じて強度を調整してもらえるか。指導者が病気の特性を理解しているかも大切です。
この3つを満たすなら、ボクシングでも、ダンスでも、卓球でもかまいません。ご自身が「また行きたい」と思える場所を選ぶことが、いちばんの近道です。
情報源
MGプレス「ボクシングで難病に挑む 松本などでパーキンソン病患者のためのセラピープログラム」2026年9月1日
https://mgpress.jp/2026/09/01/life/health/53734/
Rock Steady Boxing 公式サイト「Our Story」
https://rocksteadyboxing.org/our-story/
González-Devesa D, Ayán C, Sanchez-Lastra MA, Gutiérrez-Hong C, García-Fresneda A, Diz JC. The Efficacy of Boxing Training on Patients with Parkinson’s Disease: Systematic Review and Meta-Analysis. Rev Neurol. 2024;79(11):36478. doi:10.31083/RN36478
Wang Z, Song B, Liu C, Ma H, Bai Z, Carneiro MAS, Youssef L, Chen C, Zhang L, Wang D, Wang D. Effects of boxing exercise in people with Parkinson’s disease: a systematic review. Front Aging Neurosci. 2025;17:1505326. doi:10.3389/fnagi.2025.1505326
Combs SA, Diehl MD, Chrzastowski C, Didrick N, McCoin B, Mox N, Staples WH, Wayman J. Community-based group exercise for persons with Parkinson disease: a randomized controlled trial. NeuroRehabilitation. 2013;32(1):117-124. doi:10.3233/NRE-130828
Ernst M, Folkerts AK, Gollan R, Lieker E, Caro-Valenzuela J, Adams A, Cryns N, Monsef I, Dresen A, Roheger M, Eggers C, Skoetz N, Kalbe E. Physical exercise for people with Parkinson’s disease: a systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2024;4(4):CD013856. doi:10.1002/14651858.CD013856.pub3
※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。