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第9回「パーキンソン病と家族・パートナー」──周囲との向き合い方

はじめに読む10選

この記事は、当事者の方にも、支えるご家族やパートナーにも読んでいただきたいと思って書いています。できれば、両方の立場の方に読んでもらえるとうれしいです。

パーキンソン病は、ご本人だけの病気ではありません。暮らしを共にする人の毎日も、確実に変わります。そして残念なことに、その変化のなかで誤解によってすれ違い、関係が傷ついてしまうことが本当に多いのです。しかもその誤解の多くは、病気の知識があれば防げるものです。この記事では、実際に起きているすれ違いと、その解き方をお伝えします。

家族も「当事者」です──支える側が抱えるもの

まず、支える側の方に向けて書きます。

診断を受けたとき、周囲の関心も心配も、当然ながらご本人に集まります。「しっかり支えてあげてください」と言われることはあっても、「あなたは大丈夫ですか」と聞かれる機会は、ほとんどありません。

けれど実際には、ご家族も大きなものを抱えています。先の見通しへの不安、これまでと違う役割、増えていく気づかい、そして「自分がつらいと言ってはいけない」という気持ち。ご本人のほうがずっと大変なのだから、と自分の感情に蓋をしてしまう方が、とても多くいらっしゃいます。

ここではっきりお伝えしておきます。支える側がつらいのは、当然のことです。それは愛情が足りないからでも、忍耐が足りないからでもありません。役割が変わり、生活が変わり、将来像が変わったのですから、揺れて当たり前なのです。

そして、これは冷たい話ではなく実際的な話として——支える側が倒れてしまうと、支えられる側も立ち行かなくなります。ご自身のケアは、余裕ができたらやることではなく、最初から必要なことです。この点は最後の節でもう一度触れます。

誤解をほどく──それは性格でも、やる気でもない

この記事でいちばんお伝えしたいのが、ここです。パーキンソン病の症状のいくつかは、「症状」ではなく「その人の態度」に見えてしまうという、たちの悪い性質を持っています。

実際によく起きているすれ違いを挙げます。

  • 「怒っているの?」——表情の変化が乏しくなるのは、この病気の症状のひとつです。第2回でお伝えした「動きが小さくなる」ことが、顔の筋肉にも起きています。不機嫌なのではありません。心のなかでは笑っていることも多いのです
  • 「聞こえない、はっきり話して」——声が小さくかすれるのも同じ症状です。本人は普通の大きさで話しているつもりでいます。「もっと大きな声で」と何度も言われることは、想像以上に自信を削ります
  • 「早くして」——動作の遅さは、急げば速くなるものではありません。急かされると、かえって固まってしまうことがよくあります
  • 「さっきは歩けていたのに」——第2回でお伝えしたとおり、症状は日によって、時間帯によって変わります。これは気分や意欲の問題ではありません。ここを共有できていないことが、家庭内でもっとも深刻なすれ違いを生みます
  • 「やる気がなくなった」——意欲の低下(アパシー)は、なまけでも性格の変化でもなく、この病気に伴って現れうる症状です。「しっかりして」と励ますことが、双方を追い詰めてしまうことがあります

そしてもう一つ、とても大切なことを書きます。買い物や賭け事などが急に抑えられなくなった——もしそうした変化があれば、それは第5回でお伝えした薬の影響である可能性があります。人格が変わってしまったのでも、家族を裏切ったのでもないかもしれないのです。責める前に、まず主治医の先生に相談してください。調整によって改善しうる問題です。

ご本人の側にも、お伝えしたいことがあります。これらは、言わなければ伝わりません。「表情が出にくいだけで、怒っていない」「急かされると固まってしまう」。こうしたことを、症状が軽いうちに一度きちんと話しておくと、あとの何十回ものすれ違いを防げます。

手伝いすぎない、という難しい優しさ

ここは、理学療法士としてどうしてもお伝えしたい部分です。

ご家族がよかれと思って行うことのなかで、いちばん多く、そしていちばん惜しいのが「先回りして全部やってしまう」ことです。時間がかかっているのを見ていられず、ボタンを留めてしまう。立ち上がろうとする前に腕を引いてしまう。言葉が出るのを待たずに代わりに答えてしまう。

気持ちは痛いほど分かります。けれど、やらなくなった動作は、確実にできなくなっていきます。第6回でお伝えしたとおり、機能を保つのは日々の積み重ねです。時間がかかっても自分で行う一回一回が、そのままリハビリになっています。

ですから、目安はこう考えてください。

  • 時間がかかるだけなら、待つ——遅いことは、できないことではありません。待つことは、多くの場合いちばん質の高い支援です
  • 危険があるなら、迷わず助ける——転びそう、火を使っている、むせている。安全に関わる場面での援助はためらわないでください
  • 疲れているとき、時間がないときは、手伝ってよい——毎回完璧に待つ必要はありません。無理をして支える側が消耗するほうが、長い目で見て損失です
  • 本人に聞く——「手伝おうか?」の一言があるだけで、関係はまったく変わります。何を自分でやりたいかは、ご本人がいちばん分かっています

「待つ」ことは、実は「やってあげる」ことよりずっと難しい支援です。それができているご家庭を、私は現場で何度も見てきました。そして、そういう方は本当に長く、ご自身の力を保っておられます。

関係を「介護する人・される人」だけにしない

病気が生活の中心になると、二人の関係が「支える人と支えられる人」だけになってしまうことがあります。会話の話題が体調と薬と通院の話ばかりになり、夫婦や親子として過ごしていた時間が消えていく。これは、どちらにとってもつらいことです。

意識して守っていただきたいことがあります。

ひとつは、ご本人を飛ばして話さないことです。診察の場面でとくに起きやすいのですが、ご本人が目の前にいるのに、家族と医師だけで話が進んでしまうことがあります。ご家族が補足すること自体はとても有用です。ただ、まずご本人が話し、必要なところを補う——この順番を守るだけで、ご本人の尊厳はきちんと保たれます。

もうひとつは、病気以外の時間を確保することです。一緒に映画を見る、外食する、旅行の計画を立てる、昔の話をする。「そんな余裕はない」と感じるかもしれませんが、この時間こそが関係を支えています。

そして、ご本人にも役割を残してください。できなくなったことに合わせて、できることを新しく担ってもらう。家計の管理、献立を決める、孫の相手をする、家族の相談に乗る。役割があることは、それ自体が機能を保つ力になります。第8回でお伝えした「社会とのつながり」と、まったく同じ話です。

お子さんやお孫さんへの説明も、迷いどころだと思います。年齢に応じてで構いませんが、隠すよりは伝えたほうが、たいていうまくいきます。子どもは大人が思うより敏感で、説明されないと「自分のせいかもしれない」と考えてしまうことがあります。「体を動かす脳の働きがゆっくりになる病気で、うつるものではないし、おじいちゃんはおじいちゃんのまま」——それだけでも、ずいぶん違います。

支える側が倒れないために

最後に、もう一度支える側の話に戻ります。

介護が長くなると、支える方自身に不調が現れることがあります。眠れない、気分が沈む、食欲がない、何をしても楽しくない、些細なことでいら立つ。これらは「気持ちの弱さ」ではなく、受診や相談が必要なサインです。ご自身のかかりつけ医に相談してください。支える側の心身の不調は、決して珍しいことではありません。

そして、抱え込まないための具体的な手立てを挙げます。

  • 介護保険のサービスを使う——第4回でお伝えしたとおり、パーキンソン病は40歳以上であれば介護保険の対象となる病気に含まれています。通所や訪問のサービス、短期間の入所(ショートステイ)などを組み合わせることで、支える側が休む時間をつくれます。「まだ早い」と我慢せず、まずケアマネジャーや地域包括支援センターに相談を
  • 家族会・患者会につながる——同じ立場の人と話せる場は、情報以上に大きな支えになります。「分かってもらえる」という経験は、専門職からの助言では代えられません。難病相談支援センターで紹介してもらえることもあります
  • 専門職を味方につける——医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、リハビリの専門職。「どう接すればいいか分からない」という相談をしてよい相手です。むしろ、そういう相談こそ歓迎されます
  • 自分の時間を、予定として確保する——余った時間にやろうとすると、永久に来ません。あらかじめ予定に入れてしまうのが現実的です

罪悪感を持つ必要はありません。休むことは、放り出すことではありません。長く支え続けるための、必要な手入れです。

まとめ──ここだけは押さえておきたいこと

  • 支える側もまた当事者。つらいと感じるのは自然なことで、支える側が倒れると全体が立ち行かなくなる
  • 表情が乏しい、声が小さい、動きが遅い、意欲が出ない、日によって違う——これらは態度ではなく症状。ここの共有が家庭内のすれ違いを最も減らす
  • 急に衝動が抑えられなくなった場合は、薬の影響の可能性がある。責める前に主治医の先生に相談する
  • 時間がかかるだけなら待つ。危険があるときは迷わず助ける。迷ったら「手伝おうか?」と聞く
  • ご本人を飛ばして話さない。病気以外の時間を守る。ご本人に役割を残す
  • 支える側の不眠・気分の落ち込みは受診のサイン。介護保険サービス、家族会、専門職を使って抱え込まない

ご家族から「どう接したらいいのか分かりません」と相談されることがよくあります。私はいつも、こうお答えしています。正解の接し方を探すより、本人に聞いてみてください。そして、聞ける関係を保つことのほうが、正しい介助の技術より、ずっと長く効いてきます。

参考情報

※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。

リモネック株式会社 代表取締役CEO

認定理学療法士(神経筋障害) LSVT-BIG認定Therapist

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