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第10回「信頼できる情報源の見分け方」──情報リテラシーを身につける

はじめに読む10選

シリーズの最後に、いちばん役に立つ道具をお渡しします。情報を自分で見分ける力です。

病気について調べはじめると、すぐに気づくことがあります。情報が、多すぎるのです。しかもそれぞれが違うことを言っている。「これで治った」という体験談があり、高額な治療を勧める広告があり、専門家の慎重な説明があり、そのどれもが同じ検索結果に並んでいます。

この記事では、その海を自分で泳ぐための方法をお伝えします。そしてもう一つ。私たちがどういう基準で情報を選んで記事を書いているのかも、包み隠さずお伝えします。これは、この媒体を信じてくださいというお願いではありません。この媒体すら確かめられるようになってほしい、という意味です。

なぜ、この病気には情報が多すぎるのか

まず、なぜこんな状況になっているのかを理解しておくと、心の備えができます。

第4回でお伝えしたとおり、パーキンソン病には現時点で進行そのものを止める治療が確立していません。医学が誠実であろうとすると、どうしても「まだ分かっていません」「効果は確かめられていません」という言い方が増えます。

その空白に、断定的な言葉が流れ込みます。「治る」「止められる」「医者は教えてくれない」。診断を受けたばかりで、なんとかしたいと強く願っているときほど、その言葉は魅力的に響きます。これは、あなたが弱いからではありません。誰でもそうなります。そこを狙って作られている言葉だからです。

だからこそ、感情ではなく手順で判断できる道具を持っておくことが役に立ちます。次から、その道具をお渡しします。

情報には「強さ」の階層がある

まず知っておいていただきたいのが、研究の情報には強さの段階があるということです。同じ「効果があった」という言葉でも、その裏づけの強さはまったく違います。弱いほうから順に見ていきます。

  • 体験談——「これで良くなった」という個人の話です。本人にとっては真実ですが、たまたま調子が良い時期だったのかもしれませんし、同時に始めた別のことが効いたのかもしれません。他の人にも起きるかどうかは、これだけでは分かりません
  • 細胞や動物を使った実験——研究の出発点として非常に重要です。ただし、試験管やマウスで起きたことが、人でも同じように起きるとは限りません。ここで有望に見えた多くのものが、人の試験で効果を示せずに消えていきます。「◯◯に効果」というニュースが、実は細胞の実験だった、というのは本当によくあることです
  • 観察研究——たくさんの人を調べて「Aをしている人はBが少ない」といった傾向を見る研究です。ここで分かるのは関連であって、原因と結果ではありません。第7回のコーヒーの話がまさにこれです。「関連がある」と「それをすれば良くなる」は、まったく別のことです
  • ランダム化比較試験——参加者をくじ引きのように二つのグループに分け、一方には試したい方法を、もう一方には別の方法を行って比べる研究です。条件をそろえて比べるので、効果があったかどうかに、かなり近づけます。医学で「効く」と言えるかどうかは、多くの場合ここが分かれ目になります
  • 複数の試験をまとめた研究(システマティックレビュー・メタ解析)——同じテーマの試験を集めて総合的に評価するものです。一本の研究の偶然に振り回されにくくなります
  • 診療ガイドライン——専門家がこれらを総合的に検討し、診療の指針としてまとめたものです。日本では日本神経学会が公表しています

この階層を頭に入れておくだけで、情報の受け取り方が変わります。「効果があると証明された」と書かれていたら、それはどの段階の話なのかを確かめる。これだけで、かなりの誤情報をふるいにかけられます。

そして大事な補足を一つ。階層が低い=価値がない、ではありません。体験談には、数値では分からない生活の知恵が詰まっています。動物実験は未来の治療の出発点です。問題なのは、低い段階の情報を、高い段階の結論であるかのように語ることなのです。

目の前の情報を確かめる、6つの問い

実際に何かを目にしたとき、次の6つを問いかけてみてください。慣れれば数十秒で済みます。

  • 誰が書いているか——名前と所属、資格が示されているか。医療の情報なのに書き手が分からないものは、それだけで注意が必要です
  • 何を根拠にしているか——出典が示されているか。示されていたら、それはどの段階の研究か(前の節の階層)。「研究によると」だけで元の論文が分からないものは、確かめようがありません
  • いつの情報か——医学は更新されます。第5回でお伝えしたレボドパの誤解のように、かつての常識が変わることもあります。日付のない情報は扱いに注意を
  • 何かを売っていないか——記事の先に、商品や高額な自由診療への申し込みがつながっていないか。売り手が書いた情報が必ず間違いというわけではありませんが、都合の良い部分だけが強調されやすいことは知っておくべきです
  • 言い切りすぎていないか——「必ず」「完全に」「奇跡の」。医学の世界で誠実な人ほど、こうした言葉を使いません。断定の強さは、しばしば根拠の弱さの裏返しです
  • 他でも同じことが言われているか——公的機関や学会の情報と照らし合わせる。ひとつの情報源だけが特別なことを言っている場合は、慎重になってください

そして、最強の確認方法をお伝えします。主治医の先生に見せることです。「こんな情報を見たのですが、どう思われますか」。この一言は、どんなチェックリストよりも確実です。忙しそうで聞きにくいと感じるかもしれませんが、患者さんが怪しい情報に大金を払う前に相談してくれることを、医療者は本当にありがたいと思っています。

これが出てきたら、いったん止まる──危険信号

次のような特徴が出てきたら、その場で判断せず、いったん立ち止まってください。

  • 「医者は教えてくれない」「病院では治らない」——医療への不信をあおって、比較や相談をさせないための常套句です
  • 体験談と写真だけ——「劇的に改善した人」の話ばかりで、うまくいかなかった人の話が一切ない。効果を示す方法として、これは成立しません
  • 「副作用は一切ありません」——効果があるものには、なんらかの作用と反作用があります。まったく害がないと言い切るものは、効果もない可能性を疑ってよいでしょう
  • 期限や人数を区切って急がせる——「今月まで」「あと3名」。冷静に考える時間を奪うための手法です。医療にそんな締め切りはありません
  • 高額な自己負担を求める——公的保険がきかない高額な治療を勧められたら、必ず主治医の先生に相談を。第4回で書いたとおり、「進行を止める」とうたう治療は、まだ確立されていません
  • 「主治医には言わないほうがいい」——これが出てきたら、迷わず離れてください。相談されて困る相手が、あなたの味方であるはずがありません。この一点だけでも覚えて帰っていただければ、この記事の目的は果たせます

もし、すでに何かを始めていて不安になったとしても、ご自身を責めないでください。だまされる人が愚かなのではなく、だます側が巧妙なのです。気づいた時点で相談すれば、それでいいのです。

どこを見ればいいのか──信頼できる情報源

「では、何を見ればいいのか」。土台になる情報源を挙げます。

  • 難病情報センター——国の難病対策に基づく情報サイトです。病気の概要、診断の基準、医療費助成の制度など、公的な情報の出発点になります
  • 日本神経学会の診療ガイドライン——専門家が研究を総合的に検討してまとめた指針です。専門的ですが、「いま医療の世界でどう考えられているか」を確かめられます
  • 厚生労働省や自治体、保健所——制度や手続きは、必ず公的な窓口で確認してください。第4回・第8回でお伝えしたとおり、制度は改定されます
  • 通院先の医療機関、専門医のいる施設——あなたの状態を知っている人の情報が、いちばん個別性が高く役に立ちます
  • 患者会・当事者団体——生活の工夫や経験の共有は、公的情報にはない価値があります。ただし、そこで交わされる情報も体験談は体験談です。医学的な判断は、専門職と一緒に
  • 海外の主要な患者団体・研究財団——研究動向の情報が豊富です。ただし英語であること、国によって使える薬や制度が違うことには注意が必要です

大切なのは、「困ったときに戻ってくる場所」をいくつか決めておくことです。あてもなく検索し続けると、アルゴリズムが刺激の強い情報を運んできます。最初から信頼できる場所を持っておくほうが、心の消耗もずっと少なくて済みます。

AIとSNSの時代に、気をつけたいこと

いまは、検索だけが情報の入口ではありません。ここは新しい注意点です。

生成AIに質問するのは、とても便利です。難しい言葉をかみくだいてもらう、聞きたいことを整理する——こうした使い方は有効です。ただし、AIはもっともらしい間違いを、自信たっぷりに答えることがあります。出典が示されていない答えは、そのまま信じないでください。使うなら「出典を教えて」と重ねて聞き、示された出典を自分の目で確かめる。これが最低限の使い方です。

SNSや動画も同様です。仕組みとして、穏当な情報より、断定的で刺激の強い情報のほうが広まりやすいという性質があります。あなたの目に多く触れる情報が、正しい情報とは限りません。むしろ逆のことすらあります。

そして——ここは正直に書きます——この記事も、確かめてよい対象です。私たちの記事にも、書いた時点での限界があります。参考にした情報源を末尾に示しているのは、そのためです。「言っていることを信じてください」ではなく、「確かめられるようにしておきます」。それが、この媒体が目指している形です。

私たちが記事を書くとき守っているのは、次のようなことです。研究の段階を混同しない。分かっていないことは分かっていないと書く。数字は出典どおりに引用する。断定できないことは断定しない。そして、不安をあおって何かを売らない。この基準に反する記事を見つけたら、遠慮なくご指摘ください。それが、この媒体を良くしていく方法だと考えています。

まとめ──ここだけは押さえておきたいこと

  • この病気に断定的な情報が多いのは、医学が「まだ分かっていない」と誠実に言う空白を、断定的な言葉が埋めにくるから。引き寄せられるのは弱さではない
  • 情報には強さの階層がある。体験談 → 細胞・動物実験 → 観察研究 → ランダム化比較試験 → まとめた研究 → 診療ガイドライン。「効果がある」がどの段階の話かを確かめる
  • 階層が低い情報に価値がないのではない。低い段階の話を高い段階の結論のように語ることが問題
  • 6つの問い——誰が書いたか/根拠は何か/いつの情報か/何かを売っていないか/言い切りすぎていないか/他でも同じことが言われているか
  • 危険信号——「医者は教えてくれない」/体験談だけ/「副作用ゼロ」/期限で急かす/高額な自己負担/「主治医には言わないで」
  • 戻ってくる情報源を決めておく。難病情報センター、学会のガイドライン、公的窓口、通院先
  • AIの答えは出典を確かめる。SNSでは刺激の強い情報ほど広まりやすい。この記事もまた、確かめてよい対象である

10回にわたってお読みいただき、ありがとうございました。

このシリーズを通してお伝えしたかったのは、正しく知ることは、不安を増やすためではなく、減らすためにあるということです。病気の仕組みを知り、症状に名前をつけ、進行の見通しを整理し、治療とリハビリの位置づけを理解し、暮らしと仕事と人との関わりを組み立て直す。そして最後に、情報を自分で選べるようになる。

ここまで来れば、もう情報の海で溺れることはありません。疑うためではなく、選ぶために。この力が、これからの毎日をきっと支えてくれます。分からないことがあれば、いつでもここに戻ってきてください。

参考情報

  • 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
  • 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018″>https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html

※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。

リモネック株式会社 代表取締役CEO

認定理学療法士(神経筋障害) LSVT-BIG認定Therapist

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