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第7回「パーキンソン病と食事・生活習慣」──エビデンスのある範囲で

はじめに読む10選

「パーキンソン病に効く食べ物はありますか」。この質問を、本当によく受けます。そして私はいつも、少し申し訳ない気持ちで「それを食べれば症状が良くなる、という食べ物は残念ながらありません」とお答えしています。

けれど、そこで話が終わるわけではありません。食事と生活習慣には、確かに手をつける価値のある領域があります。ただしそれは「効く食べ物」ではなく、便秘、体重、飲み込み、睡眠、骨といった、暮らしの土台に関わる部分です。この記事では、いま分かっていることの範囲を守りながら、実際に役に立つところだけをお伝えします。逆に、根拠が弱いのに大きく語られていることには、はっきり線を引きます。

食事は「治療」ではない。でも「土台」ではある

はじめに、いちばん大事な整理をしておきます。食事によってパーキンソン病そのものを治したり、進行を止めたりできるという根拠は、現時点でありません。これは第4回でお伝えした「進行を止める治療は確立していない」という話と同じ地平にあります。

ここをあいまいにしておくと、「特別な食事法で治る」という情報に足をすくわれます。診断を受けたばかりの時期は、なんとかしたい気持ちが強いぶん、その言葉が魅力的に響いてしまうものです。だから、最初に線を引いておきたいのです。

一方で、こうも言えます。食事と生活習慣を整えることは、症状の出方や毎日の動きやすさに、確かに影響します。便秘が改善すれば体が楽になります。体重が保てれば筋力も保ちやすくなります。よく眠れれば翌日の動きが違います。骨が丈夫なら、転んだときの被害が小さくて済みます。

つまり、食事は病気を治す「治療」ではないけれど、治療とリハビリが効くための「土台」ではあるのです。この位置づけで捉えると、何に力を入れるべきかが見えてきます。

まず手をつけるべきは、便秘と体重の維持

優先順位をつけるなら、この二つが最上位です。どちらも地味ですが、暮らしへの影響がとても大きい部分です。

便秘は、第2回でお伝えしたとおり、パーキンソン病でとくに多い症状のひとつです。しかも「年のせい」で片づけられがちで、相談されずに放置されやすい。放っておくとお腹の張りや食欲の低下につながり、食事量が落ちる悪循環を招きます。

対策の基本は、水分をしっかりとること、食物繊維を含む食品(野菜、海藻、果物、豆類など)を意識すること、そして体を動かすことです。腸は動かないと動きません。第6回でお伝えした運動は、便通にも効いてきます。それでも改善しないときは、我慢せず主治医の先生に相談してください。対応の選択肢はあります。

体重の維持も、見落とされやすい重要事項です。パーキンソン病では体重が落ちやすい傾向があります。理由は一つではありません。動きにエネルギーを多く使うこと、においや味を感じにくくなって食欲が落ちること、気分の落ち込み、飲み込みにくさ、便秘によるお腹の不快感——こうしたものが重なります。

体重が減ると、筋肉も一緒に落ちます。筋肉が落ちれば動きにくくなり、動かなくなればさらに落ちる。この下り坂に入らないことが大切です。ですから「痩せてきたら要注意」と覚えておいてください。ご自宅で定期的に体重を測り、記録しておくことをおすすめします。減ってきているなら、それは診察で伝えるべき重要な情報です。管理栄養士に相談できる医療機関も増えています。

睡眠・骨・立ちくらみ──見落とされがちな三つ

食事以外の生活習慣で、手をつける価値が高いものを三つ挙げます。

  • 睡眠——夜の眠りは、翌日の動きやすさに直結します。起きる時間をそろえる、日中に体を動かす、朝に光を浴びる、夕方以降のカフェインを控える、寝る前のアルコールに頼らない。基本的なことですが、効きます。それでも眠れない、夜中に動けなくてつらい、大声を出していると家族に言われた——そうした場合は、主治医の先生に伝えてください。夜間の症状には対応の余地があります。
  • 骨の健康——ここは意外に語られません。パーキンソン病では転倒のリスクが上がりますが、そのときに骨が弱っていると骨折につながります。第4回でお伝えしたとおり、骨折は将来の見通しを大きく左右します。カルシウムを含む食品をとること、適度に日光を浴びること、そして骨の状態が気になるなら主治医の先生に相談すること。サプリメントを自己判断で足すより、まず状態を確認するほうが確実です。
  • 立ちくらみ——起立性低血圧がある方は、急に立ち上がらない、立つ前に足首を動かす、食後は少し休むといった工夫が助けになります。水分をこまめにとることも勧められます。ただし塩分については注意が必要です。高血圧や心臓・腎臓の病気がある方では判断が変わるため、自己判断で塩分を増やさず、必ず主治医の先生に相談してください。

どれも派手ではありませんが、こうした土台の積み重ねが、実際の暮らしを支えています。

薬と食事は、思っているよりつながっている

第5回でも触れましたが、大切なので改めてお伝えします。レボドパは、食事の内容やタイミングによって吸収され方が変わることがあります。

とくに知られているのが、たんぱく質との関係です。レボドパは、たんぱく質が分解されてできる成分と、体に取り込まれる経路が近いため、食事の影響を受けることがあると考えられています。「食後に飲むと効きが遅い気がする」という感覚には、根拠がありうるわけです。

ただし、ここで絶対にやってはいけないことがあります。自己判断でたんぱく質を減らすことです。たんぱく質は筋肉を保つために欠かせません。減らせば、体重の減少と筋力の低下という、先ほど挙げた最も避けたい下り坂に自分から入ってしまいます。

正しい進め方はこうです。「食事との関係で効き方が変わる気がする」と気づいたら、その気づきをそのまま主治医の先生や薬剤師に伝えてください。飲む時間をずらす、食事の内容の配分を工夫する、といった調整は、専門家と一緒に行えば安全にできます。一人で食事を削るのは、失うものが大きすぎます。

もう一点。サプリメントや健康食品も、必ず伝えてください。「食品だから薬とは関係ない」と思われがちですが、薬の働きに影響しうるものもあります。お薬手帳に書き添えておくのが確実です。

飲み込みは、早めの相談がいちばん効く

この記事のなかで、いちばん強くお伝えしたいのがここです。飲み込みにくさは、早めに相談する価値がもっとも高い症状です。

理由は明確です。第4回で触れたとおり、パーキンソン病の経過で注意が必要な合併症のひとつが、飲み込みの働きが弱まることによる肺炎です。そして飲み込みは、本人が自覚する前から変化が始まっていることがあるという特徴があります。

次のようなサインがあれば、それは相談のきっかけです。

  • 食事中や飲み物でむせることが増えた
  • 薬が飲みにくい、口の中に残る感じがする
  • 食事に時間がかかるようになった
  • 食後に声がかすれる、痰が増えた
  • 体重が減ってきた(食べる量が減っている可能性)

相談先は主治医の先生、そして言語聴覚士です。飲み込みの評価を受け、食事の姿勢、一口の量、飲み物のとろみ、食べ物の形態といった具体的な工夫を教えてもらえます。「まだ大丈夫」と思える段階で評価を受けておくことが、いちばん賢い使い方です。

あわせて、口の中を清潔に保つことも肺炎の予防につながります。歯みがき、入れ歯の手入れ、歯科の定期受診。地味ですが、ここは確かな効果が期待できる領域です。

「これが効く」を見分ける──コーヒー、喫煙、サプリメント、食事法

最後に、この分野でもっとも情報が混乱している部分を整理します。ここはエビデンスの読み方の練習にもなります。

コーヒー(カフェイン)と喫煙——「コーヒーを飲む人や喫煙する人は、パーキンソン病になりにくい」という関連が、多くの観察研究で報告されてきました。これは事実です。しかし、ここには二つの落とし穴があります。

ひとつは、これらは「発症するかどうか」を人の集団で見た研究であって、すでに発症した方の症状を良くする治療として確かめられたものではないということ。もうひとつは、観察研究で見えるのは関連であって、原因と結果の証明ではないということです。ですから「コーヒーを増やせば症状が良くなる」とは言えません。もちろん、楽しみとして飲むことに問題はありませんが、夕方以降は睡眠を妨げるので控えるのが賢明です。

そして喫煙については、絶対に勧められません。関連が報告されているとはいえ、喫煙はがん、心臓の病気、肺の病気など多くの重大なリスクを確実に高めます。この一点で、選択肢になりません。「パーキンソン病に良いと聞いた」という理由で喫煙を始める、あるいは続けることは、してはならない判断です。

サプリメント——パーキンソン病に対して期待され、実際に大規模な臨床試験まで行われた成分がいくつかあります。しかし、そこで明確な有効性が確認されなかったものも複数あります。「試験で効果が示されなかった」という結果は報道されにくいため、期待だけが世の中に残り続けているのが実情です。高額なサプリメントを勧められたときは、「それは臨床試験で効果が確かめられているのか」と問い直してみてください。

食事法——野菜、果物、魚、豆類、オリーブオイルなどを中心とした食べ方が、健康面で良い方向と関連していると報告されています。これは取り入れて損のない食べ方です。ただし、これも「関連」の水準の話であり、「この食事法でパーキンソン病が治る」という主張とは、まったく別物です。健康的な食事として続けるのは良いこと。治療として期待するのは行き過ぎ——この線引きが大切です。

情報の見分け方そのものについては、シリーズ最終回でくわしく取り上げます。

まとめ──ここだけは押さえておきたいこと

  • 食事でパーキンソン病そのものを治す・進行を止める根拠は現時点でない。ただし食事と生活習慣は、治療とリハビリが効くための「土台」になる
  • 優先順位の最上位は便秘対策と体重の維持。水分・食物繊維・運動、そして体重を定期的に測って記録する
  • 睡眠・骨の健康・立ちくらみへの対応も効いてくる。ただし塩分の増減は自己判断せず主治医の先生と
  • レボドパは食事の影響を受けることがある。気づいたら伝える。自己判断でたんぱく質を減らすのは、体重と筋力を失うので避ける
  • サプリメントや健康食品も薬との関係があるため、必ず伝える
  • 飲み込みにくさは早めの相談がいちばん効く。むせる・薬が飲みにくい・食事に時間がかかるなどはサイン。口腔ケアも肺炎予防につながる
  • コーヒーや喫煙の「関連」を「効く」と読み替えない。喫煙は関連が報告されていても絶対に勧められない
  • 健康的な食事法は取り入れて損はないが、治療として期待するのは行き過ぎ

食事の話は、つい「何を足すか」に目が向きます。でも実際に効いてくるのは、便秘を放置しない、体重を落とさない、むせを見逃さない——この三つです。派手さはありませんが、ここを押さえている方は、長く安定して過ごされています。

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参考情報

※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。

リモネック株式会社 代表取締役CEO

認定理学療法士(神経筋障害) LSVT-BIG認定Therapist

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