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第6回「パーキンソン病のリハビリテーション」──何が効果的かをやさしく解説

2026.09.03
はじめに読む10選

「運動したほうがいいのは分かっているのですが、何をすればいいのか分からないんです」——診断を受けた方から、いちばん多くいただく相談です。

パーキンソン病の治療には二つの柱があります。第5回で扱った薬と、この記事で扱う運動・リハビリテーションです。そして、リハビリテーションは「薬のおまけ」ではありません。それ自体が治療の柱のひとつとして位置づけられています。この記事では、なぜ運動が効くのか、どんな方法があるのか、何をどれだけ続ければよいのか、そして専門職や制度をどう使えばよいのかを、順にお伝えします。私自身が理学療法士として日々向き合っている領域なので、現場で見ていることも率直に書きます。

運動は「もう一つの治療」──薬と並ぶ柱として

まず、エビデンスの位置づけをはっきりさせておきます。パーキンソン病における運動療法・リハビリテーションは、数多くの臨床研究が積み重ねられ、診療ガイドラインのなかでも有効性が検討されている領域です。「気持ちの問題」や「やらないよりまし」という次元の話ではありません。

ただし、誠実に線を引いておく必要もあります。第4回でお伝えしたとおり、運動が病気の進行そのものを止めるという証明はされていません。示されているのは、動きやすさ・バランス・歩行・生活の質といった「機能」の面での改善や維持です。研究の世界では、運動が病気の進み方そのものに良い影響を与えるかどうかも検討されていますが、そこはまだ結論が出ていない段階です。

それでも、この「機能の維持」がどれだけ大きな意味を持つかは、強調しておきたいところです。転ばずに歩けること、自分で着替えられること、出かけたい場所に行けること——暮らしの豊かさは、ここで決まります。段階の数字ではなく、こちらが本体なのです。

そしてもう一つ。始めるのに「早すぎる」ということはありません。「まだ症状が軽いから、悪くなってから始めよう」と考える方がいますが、これはとてももったいない考え方です。動けるうちに体を動かす習慣をつくっておくことが、あとになって効いてきます。

なぜ「大きく動く」練習が効くのか

パーキンソン病のリハビリテーションには、この病気の特性に合わせた独特の考え方があります。その中心にあるのが「大きく動く」という発想です。

第2回でお伝えしたように、この病気では動きが小さく、遅くなっていきます。しかも厄介なのは、ご本人の感覚としては「普通に動いている」つもりなのに、実際の動きは小さくなっているという点です。「もっと大きく歩いてください」とお願いすると、驚くほどしっかり歩ける方がたくさんいます。つまり、動く力そのものが失われているのではなく、動きの大きさを見積もる感覚がずれてきているのです。

そこでリハビリテーションでは、この「ずれ」を意識的に上書きしていきます。日常でちょうどよいと感じる大きさより、あえて大げさなくらい大きく動く練習を繰り返す。それによって、「これくらい動けばよい」という体の目安を作り直していくわけです。

この考え方を体系化した代表的なプログラムがLSVT BIG(大きな動きを集中的に繰り返し練習する運動療法プログラム)です。声が小さくなることに対しては、同じ発想に立つLSVT LOUDという言語聴覚療法のプログラムもあります。私はこのLSVT BIGの認定セラピストとして多くの方に関わってきましたが、集中的に取り組んだ方の変化には、いまでも毎回驚かされます。

並行して重要なのが、次の二つです。

  • 有酸素運動——歩く、自転車をこぐ、といった、息が少し上がる運動です。心肺機能や全身の体力を保つだけでなく、パーキンソン病の症状そのものへの影響についても研究が積み重ねられている領域です。
  • 筋力トレーニング——おもりやマシン、あるいは自分の体重を使って、筋肉に負荷をかける運動です。立ち座りや歩行といった動作の土台を支えます。

どちらか一方ではなく、大きく動く練習・有酸素運動・筋力トレーニングを組み合わせるのが基本の形です。

リズムと目印が、止まった足を動かす

すくみ足に対しては、まったく別の角度からの工夫があります。ここはパーキンソン病のリハビリテーションのなかで、もっとも「知っているだけで役に立つ」部分かもしれません。

第2回で、すくみ足は「歩けない」のではなく「歩き出せない」状態だとお伝えしました。そして、リズムがあると動きやすくなることがある、とも書きました。これを治療に応用したのがキューイング(合図を使う方法)と呼ばれる考え方です。

  • 音のリズムを使う——メトロノームや音楽、あるいは「いち、に、いち、に」という声かけに合わせて足を出す方法です。専門的にはリズム聴覚刺激(RAS=Rhythmic Auditory Stimulation)と呼ばれ、歩行の改善を目的に用いられます。
  • 目で見る目印を使う——床にテープで線を引き、それをまたぐように歩く。杖の先にレーザーの光を出す道具を使う。視覚的な目標があると、一歩目が出やすくなる方が多くいます。
  • 動きの手順を作る——歩き出す前に、いったん体重を左右に揺らす。かかとを一度後ろに引いてから前に出す。「その場で足踏みしてから歩き出す」。こうした自分に合った手順を決めておくと、固まったときの脱出方法になります。

これらは道具も費用もほとんどかかりません。ただし、どの合図がその方に合うかは、実際に試してみないと分かりません。ここはぜひリハビリの専門職と一緒に探してください。合う合図が一つ見つかるだけで、外出のハードルがぐっと下がることがあります。

逆に、注意しておきたいこともあります。歩きながら別のことを同時に行うのは、この病気ではとくに苦手になりやすく、転倒につながります。歩きながらスマートフォンを見る、話しながら急いで方向転換する、荷物を持って人混みを抜ける。こうした場面では、無理をせず「立ち止まってから行う」ほうが安全です。同時に二つのことを行う練習自体は有用ですが、それは専門職の指導のもとで行うものだと考えてください。

何をどれだけ?「続くこと」が最優先

「結局、何をどれくらいやればいいのか」。ここが知りたいところだと思います。

目安として、息が少し上がる程度の運動を週に複数回、合計で週150分程度という考え方が、健康づくりの分野で広く用いられています。これは出発点として役に立つ数字です。ただし、実際にどの運動をどの強度でどれだけ行うかは、症状・年齢・心臓や関節の状態・薬の効き方によって変わります。ここは必ず主治医の先生やリハビリの専門職と相談して決めてください。数字に自分を無理に合わせる必要はありません。

そのうえで、私が現場で確信していることをお伝えします。いちばん効くのは、続いていることです。

実は、運動の「種類」による差より、「続けられたかどうか」の差のほうが、長い目で見た結果に大きく響きます。理想的なメニューを組んでも、三日で終われば何も残りません。逆に、地味な内容でも一年続けば、確実に体は違ってきます。ですから運動を選ぶときは、効果の高さだけでなく「これは自分が続けられるか」を必ず基準に入れてください。

続けるための工夫を挙げます。

  • 楽しめるものを選ぶ——太極拳、ダンス、水中での運動、ノルディックウォーキング。バランスや歩行を鍛えながら、楽しさと人とのつながりが得られる方法はたくさんあります。「やらなければ」で続く人は、実はほとんどいません。
  • 薬が効いている時間帯に行う——動きやすい時間に運動を組み込むと、質も安全性も上がります。第5回でお伝えした「薬の波」の記録が、ここでも役に立ちます。
  • 誰かと一緒に行う——一人で続けるのは、誰にとっても難しいことです。グループでの運動が続きやすいのは、意志が強くなるからではなく、仕組みとして続くからです。
  • 生活のなかに埋め込む——朝の着替えの前に大きく手足を伸ばす、歯磨きのあいだ片脚立ちをする(必ず何かにつかまって)。まとまった時間が取れない日の保険になります。

安全のためにひとつだけ。痛みが強くなる運動、ふらつきが大きい運動は続けないでください。また、転倒しそうな状況での自主練習は避け、支えのある場所で行ってください。「頑張って無理をする」ことと「続ける」ことは、まったく別のものです。

一人で抱えない──専門職と制度の使い方

ここまで読んで「一人では難しそうだ」と感じたなら、その感覚は正しいです。リハビリテーションは、専門職と組んだほうが確実に成果が出ます。関わる職種を整理しておきます。

  • 理学療法士——歩行、バランス、姿勢、筋力、転倒予防。大きく動く練習やキューイングの選定も担います
  • 作業療法士——着替え、食事、書字、家事といった生活動作。手先の使いにくさや、住まいの環境の工夫も相談できます
  • 言語聴覚士——声の小ささ、話しにくさ、そして飲み込みにくさ。声と飲み込みは早めの相談がとくに大切です

利用の入口は、大きく二つあります。ひとつは医療保険でのリハビリテーションで、通院先や紹介先の病院で受けるものです。集中的に取り組むために短期間入院してリハビリを行う、という方法をとる医療機関もあります。もうひとつは介護保険でのリハビリテーションで、通所(デイケアなど)や訪問という形で受けられます。第4回でお伝えしたように、パーキンソン病は40歳以上であれば介護保険の対象となる病気に含まれています。

制度には利用の条件や期間の考え方があり、地域によって使えるサービスも異なります。まずは主治医の先生に「リハビリを受けたい」と伝えること。あわせて、病院の医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター、ケアマネジャー、難病相談支援センターに相談すると、道筋が見えてきます。

最後に、いちばん大切なことを書きます。専門職に任せきりにするのでも、自分だけで頑張るのでもなく、その両方を組み合わせるのが最も強い形です。専門職と一緒に「自分に合う方法」を見つけ、それを日々の生活のなかで自分が続けていく。この分担がうまくいっている方は、本当に長く、ご自身らしい暮らしを保っています。

まとめ──ここだけは押さえておきたいこと

  • 運動・リハビリテーションは薬と並ぶ治療の柱。多くの研究が積み重ねられている領域である
  • 示されているのは「機能の維持・改善」。進行そのものを止める証明はされていないが、暮らしの質を決めるのはこちら側である
  • 始めるのに早すぎることはない。症状が軽い時期こそ、続く習慣をつくる好機
  • この病気では「大きく動く」練習が要。動く力ではなく、動きの大きさを見積もる感覚がずれているため
  • すくみ足には音のリズムや床の目印などの合図が効くことがある。合う合図は人によって違うので専門職と探す
  • 歩きながら別のことをするのは転倒につながりやすい。立ち止まってから行うほうが安全
  • 種類より「続くこと」が結果を分ける。楽しめるもの、薬が効いている時間、誰かと一緒に、生活に埋め込む
  • 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士と組み、医療保険・介護保険のリハビリを活用する。まず主治医の先生に「受けたい」と伝える

運動の話をすると、「頑張らなければ」と身構えてしまう方がいます。でも、お伝えしたいのは逆のことです。頑張り続けられる人はいません。続く形を見つけた人が、結果的に遠くまで行きます。まずは、一つだけ決めてみてください。それが今日からできることです。

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参考情報

※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。

リモネック株式会社 代表取締役CEO

認定理学療法士(神経筋障害) LSVT-BIG認定Therapist

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