診断を受けたあと、多くの方が真っ先に知りたいのは「これからどうなるのか」です。そして同時に、いちばん聞くのが怖い問いでもあります。インターネットで検索すると、段階の一覧表や重い状態の説明が並び、いっそう不安になってしまう——そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。
この記事では、進行の見通しについて、誠実にお伝えします。誠実というのは、良いことだけを並べないという意味でもあり、必要以上に暗く描かないという意味でもあります。医療の現場で使われる段階の分け方、公的な支援とのつながり、そして「変えられる部分はどこか」。順に見ていきましょう。
ホーン・ヤールの5段階は「地図の目印」であって、時刻表ではない
パーキンソン病の進行の程度をあらわす目安として、もっとも広く使われているのがホーン・ヤールの重症度分類です。半世紀以上前に提唱された古典的な分け方で、いまも診療や制度の場面で使われています。おおまかには次のような5段階です。
- 1度——症状が体の片側だけに見られる段階。日常生活への影響はごく軽い
- 2度——症状が体の両側に見られるが、姿勢やバランスを保つ力は保たれている段階
- 3度——姿勢を保つ力の低下が現れ、方向転換などでふらつきが出る段階。ただし介助なしで日常生活を送れる
- 4度——立って歩くことはできるが、日常生活に部分的な介助が必要になる段階
- 5度——車いすや寝て過ごす時間が多くなり、日常生活に多くの介助を必要とする段階
ここで、いちばん大切なことをお伝えします。この5段階は、順番どおりに進む時刻表ではありません。「1度から2度まで何年」というような決まりは存在しません。長い年月にわたって軽い段階のまま過ごされる方がたくさんいます。この表は、いま自分がどのあたりにいるかを医療者と共有するための共通言語であって、将来の予定表ではないのです。
もう一つ知っておいていただきたい限界があります。この分類が見ているのは、主に動きの症状の重さです。第2回でお伝えした便秘や睡眠、痛み、意欲の低下といった非運動症状は、ここには反映されません。ですから「ヤール2度だから軽い」とは単純に言えないのです。段階が軽くても暮らしのつらさが大きい方はいます。逆もあります。数字だけで自分の状態を判断しないでください。
もう一つの目安「生活機能障害度」──公的支援につながる物差し
日本の制度では、ホーン・ヤールの分類とあわせて生活機能障害度という目安が使われます。こちらは「暮らしのうえでどれくらい介助が必要か」に着目した3段階の分け方で、おおまかには、日常生活や通院にほとんど介助を必要としない段階(1度)、部分的な介助を必要とする段階(2度)、全面的な介助を必要とする段階(3度)に分かれます。
なぜこの二つが重要かというと、指定難病の医療費助成の対象になるかどうかが、この組み合わせで判断されるからです。パーキンソン病は指定難病であり、ホーン・ヤールの重症度が3度以上かつ生活機能障害度が2度以上に該当する場合が、助成の対象とされています。
ただし、ここで見落とされがちな仕組みがあります。この基準に当てはまらない軽い段階の方でも、医療費が高額に続いている場合には対象になりうるという「軽症高額該当」という枠組みです。医療費の総額が一定額を超える月が年に何度かある場合が想定されています。「自分は軽いから対象外だろう」と申請せずにいる方が実際に多く、これはとてももったいないことです。
また、40歳以上の方であれば、パーキンソン病は介護保険の対象となる病気に含まれています。年齢が65歳未満でも介護保険のサービスを検討できる、という点は知っておく価値があります。
制度の要件や手続きは改定されることがありますし、自治体によって窓口も異なります。正確な最新情報は、お住まいの地域の保健所、難病相談支援センター、または通院先の医療ソーシャルワーカーにご確認ください。制度は、知っている人だけが使えるものになってしまいがちです。ここは遠慮なく尋ねてよいところです。
進行の速さは人それぞれ。そして一直線でもない
「どれくらいの速さで進むのか」——この問いに、一律の答えはありません。個人差がとても大きいというのが、いちばん正確な答えです。発症したときの年齢や、症状のタイプ(ふるえが目立つ方か、動きにくさや歩行の症状が中心の方か)によって経過が違う傾向があると報告されていますが、それも「傾向」であって、一人の方の将来を言い当てるものではありません。
そして、ぜひ知っておいていただきたいのが、進行は一直線ではないということです。数年のあいだ、ほとんど変化を感じない時期もあります。一方で、風邪や感染症、脱水、睡眠不足、強いストレス、ほかの病気での入院といったきっかけで、症状が一時的にぐっと強く出ることがあります。
ここを取り違えると、必要以上に落ち込んでしまいます。一時的な調子の悪さは、病気そのものが進んだこととは違います。体調が戻れば、動きも戻ってくることが多いのです。「あのとき急に悪くなったから、もうだめだ」と結論を出さないでください。まずは体調そのものを整えること、そして気になる変化は主治医の先生に伝えることが先です。
寿命についても、正直にお伝えします。パーキンソン病は、それ自体が直接命を奪う病気ではありません。治療の選択肢が広がったことで、診断後に長い年月を過ごされる方が多くなっています。一方で、経過のなかで注意が必要になるのは、転倒による骨折や、飲み込みの働きが弱まることによる肺炎といった合併症です。逆に言えば、ここは予防に手が届く領域でもあります。転倒しにくい環境をつくること、食事の姿勢や飲み込みについて相談すること。こうした地味な備えが、将来の見通しを実際に変えていきます。
「進行を止める治療」と「機能を保つ手立て」は、別の話
ここは、誠実さがもっとも問われる部分です。はっきりお伝えします。現時点で、パーキンソン病の進行そのものを止めたり、元に戻したりする治療は確立されていません。世界中でその開発が進められている段階であり、期待できる研究もありますが、まだ「これがある」と言える治療ではありません。
けれども、これを「何をしても無駄」と受け取るのは、まったくの誤りです。進行を止めることと、機能や暮らしの質を保つことは、別の話だからです。
症状をやわらげる薬による治療は、多くの方の動きやすさを大きく改善します(第5回)。運動やリハビリテーションは、機能を保つうえで重要な役割をはたすことが多くの研究で示されています(第6回)。症状の状況によっては、脳深部刺激療法(DBS=脳の深い部分に電気刺激を与える手術による治療)といった選択肢が検討されることもあります。手立ては、確かにいくつもあるのです。
そして、だからこそ注意を促しておきたいことがあります。「進行を止める」「根本から治す」とうたう自由診療やサプリメント、幹細胞治療といった情報が、この病気の周辺には数多く流れています。診断を受けたばかりの時期は、そうした言葉にもっとも心が動きやすいときです。現時点で進行を止める治療が確立していないという事実は、そうした宣伝を見分けるための、いちばん確かな物差しになります。高額な費用を払う前に、必ず主治医の先生に相談してください。情報の見分け方については、シリーズ最終回でくわしく取り上げます。
見通しを変えられる部分に、力を注ぐ
病気の進み方そのものは、いまの医学では思うようにできません。しかし暮らしの質は、進行の段階だけで決まるわけではありません。ここには、確かに手が届きます。実際に見通しを左右する要素を挙げます。
- 運動を続けること——機能を保つ柱です。種類より「続いていること」が効いてきます。何をどれだけ行うかは、主治医の先生やリハビリの専門職と相談して決めるのが安全です
- 転倒を防ぐこと——通り道を片づける、段差や照明を見直す、あわてて方向転換しない。将来の骨折を一つ防ぐことの価値は、とても大きいです
- 食べること・体重を保つこと——食事量が落ちて体重が減ると、体力も筋力も落ちます。飲み込みにくさを感じたら早めに相談してください(第7回)
- 睡眠と便通を整えること——非運動症状の管理は、日々の動きやすさに直結します
- ほかの病気をきちんと管理すること——血圧や血糖などの併存疾患の管理は、長い目で見て効いてきます
- 社会とのつながりを保つこと——孤立は、心も体も一緒に細らせます。仕事や趣味、人との関わりを手放さない工夫が、そのまま機能の維持につながります(第8回・第9回)
理学療法士として長く多くの方と関わってきて、私が確信していることがあります。同じ段階にいる方のあいだでも、暮らしぶりには大きな差があります。そしてその差をつくっているのは、多くの場合、続けてきたことの積み重ねです。将来の段階を占うより、いま続けられることを一つ決めるほうが、確実に見通しを変えます。
まとめ——ここだけは押さえておきたいこと
- ホーン・ヤールの5段階は、いまの状態を共有するための共通言語。順番に進む時刻表ではなく、「何年で次の段階」という決まりもない
- この分類は動きの症状が中心で、非運動症状は反映されない。段階の数字だけで自分の状態を判断しない
- 生活機能障害度との組み合わせで指定難病の医療費助成の対象が決まる。軽い段階でも医療費が続く場合に対象となる仕組みもあるので、まず窓口に相談する
- 進行の速さは個人差が大きく、一直線でもない。体調の悪化による一時的な変化と、病気の進行は別のもの
- 進行そのものを止める治療は確立していないが、それは「何をしても無駄」ではない。薬・リハビリ・場合により手術という手立てがある。「進行を止める」とうたう宣伝には慎重に
- 運動の継続、転倒予防、食事、睡眠と便通、併存疾患の管理、社会とのつながり——見通しを変えられる部分に力を注ぐ
これからのことを考えるとき、私がお伝えしたいのはこの一点です。進行の段階は、あなたの暮らしの豊かさを決める数字ではありません。先の見通しに不安を感じたときは、その不安ごと主治医の先生に持っていってください。一人で抱え込む必要はまったくありません。
参考情報
- 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
- 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。