診断を受けたあと、多くの方が真っ先に考えるのが仕事のことです。「続けられるだろうか」「職場に言うべきだろうか」「言ったら居づらくならないだろうか」。医学的な不安と同じくらい、いえ、それ以上に重くのしかかることがあります。
この記事では、仕事と社会生活を続けるための考え方と、実際に使える手立てをお伝えします。最初に結論を書いておきます。診断は、仕事を辞める理由にはなりません。そして、続けるための工夫と制度は、あなたが思っているよりずっと具体的に用意されています。
診断は「辞めるべき理由」にはならない
診断を受けた直後、勢いで退職を決めてしまう方がいます。これは、私がもっとも「待ってください」とお伝えしたい場面です。
理由は三つあります。ひとつは、第4回でお伝えしたとおり進行の速さには大きな個人差があり、診断がただちに就労の困難を意味しないからです。ふたつめは、治療とリハビリによって、動きやすさは改善しうるから。診断直後は治療がまだ調整途中で、いちばん状態が読めない時期でもあります。
そして三つめが、いちばん大切です。仕事は収入だけのものではないからです。役割があること、人と関わること、生活のリズムが保たれること、外に出る理由があること。これらはすべて、第4回・第6回でお伝えした「機能を保つ」という話に直結しています。働くことは、それ自体が体と心を支える活動でもあるのです。
ですから、判断を急がないでください。まずは治療を整え、必要な工夫を試し、そのうえで考える。順番はこれで十分間に合います。
「伝えるかどうか」は、あなたが決めていい
もっとも多い悩みが、職場への開示です。ここは誤解が多いので、はっきり整理します。
病名を職場に伝える法的な義務は、原則としてありません。健康情報は極めて配慮が必要な個人情報であり、どこまで誰に伝えるかは、基本的にご本人が決めることです。「隠しているのは不誠実ではないか」と自分を責める必要はありません。
そのうえで、伝えることには現実的な利点があります。配慮を求めるためには、ある程度の情報を共有する必要があるからです。何も伝えないまま「最近ミスが増えた」「動きが遅くなった」とだけ見られてしまうのは、いちばん不利な状況です。
判断するときは、次のように分けて考えると整理しやすくなります。
- 誰に伝えるか——全員に伝える必要はありません。直属の上司だけ、人事だけ、産業医だけ、という選択もあります。産業医や保健師には守秘義務があり、まずそこに相談するのは安全な入口です
- どこまで伝えるか——病名まで伝えるのか、「体調の関係で、朝の時間帯は動きが遅いことがある」といった業務への影響だけを伝えるのか。後者で足りる場面は多くあります
- いつ伝えるか——業務に支障が出はじめたとき、あるいは配慮を求めたいときが、ひとつの目安です。安全に関わる仕事の場合は、より早い相談が必要になります
伝えると決めたなら、「できないこと」より「こうすればできること」を軸に話すのが実際的です。「歩くのが遅いので運べません」ではなく、「重い荷物の運搬を代わってもらえれば、それ以外の業務は問題なく続けられます」。同じ内容でも、受け取られ方はまったく変わります。
そしてもう一つ、伝えるときにぜひ加えてほしいことがあります。症状には波がある、という説明です。第2回でお伝えしたとおり、パーキンソン病の症状は日によって、同じ一日のなかの時間帯によっても変わります。
この点を共有しておかないと、職場でもっとも起きやすい誤解が生まれます。「午前中は普通に動けていたのに、午後は動きが遅い。手を抜いているのではないか」——この受け取られ方は、当事者の方を深く傷つけます。しかも本人からは反論しにくい。「調子が悪い」としか言えず、それがかえって言い訳のように響いてしまうからです。
ですから、開示すると決めたなら、病名そのものより「動きやすい時間と動きにくい時間があり、それは意欲とは関係がない」という一点を、はっきり伝えておいてください。これを最初に共有できているかどうかで、その後の働きやすさは大きく変わります。第5回でお伝えした記録が手元にあれば、「だいたいこの時間帯が動きにくい」と具体的に示すこともできます。
職場に頼める工夫は、思っているより具体的にできる
「配慮」というと漠然としていますが、実際にはかなり具体的な調整が可能です。近年は、事業者が障害のある人に対して合理的配慮を提供することが法律上求められるようになりました。難病のある方も、この考え方の対象になりえます。「特別扱いをお願いする」のではなく、働き続けるための環境調整を求める——そう捉えてよいのです。
実際に効果が大きい工夫を挙げます。
- 時間帯の調整——第5回でお伝えした「薬の波」に合わせ、動きやすい時間帯に負荷の高い業務を置く。時差出勤で通勤ラッシュを避ける。これだけで一日の消耗が大きく変わります
- 在宅勤務・休憩の確保——通勤の負担が減るだけで、働ける総量が増える方は多くいます。短い休憩をこまめに取れるようにするのも有効です
- 作業方法の変更——手書きが負担ならパソコン入力に。細かい手作業が難しければ担当の入れ替えを。声が通りにくければ会議でマイクを使う、あるいは事前に資料で意見を共有する
- 移動と環境——席をトイレや出入口の近くに。段差や滑りやすい床を見直す。あわてて移動しなくてよい導線をつくる
- 業務の再配分——できない一部の作業のために職を失うのは、双方にとって損失です。担当を組み替えるだけで解決することは、実際とても多いです
そして、安全に関わる重要な話をひとつ。運転については、絶対に自己判断しないでください。
第5回で触れたとおり、治療に使われる薬には強い眠気を伴うことがあります。加えて、症状そのものが反応の速さや体の動きに影響することもあります。仕事や生活で運転をされている方は、必ず主治医の先生に相談してください。「運転できなくなったら困る」という気持ちは痛いほど分かりますが、事故は取り返しがつきません。相談の結果、条件つきで続けられることもあれば、見直しが必要になることもあります。いずれにせよ、専門家と一緒に判断すべき領域です。
使える制度と相談先を、先に知っておく
第4回でも書きましたが、制度は知っている人だけが使えるものになりがちです。仕事に関わる相談先を、先に知っておいてください。困ってから探すのでは遅いことがあります。
- 難病相談支援センター——各都道府県に置かれており、就労を含む生活全般の相談ができます。同じ病気の方の経験にもつながれます
- ハローワークの難病患者就職サポーター——難病のある方の就職・転職を専門に支援する担当者が配置されています
- 地域障害者職業センター・障害者就業・生活支援センター——職場への配慮の伝え方や、職場環境の調整について具体的な支援を受けられます
- 産業医・保健師——職場に配置されている場合、守秘義務のもとで最初に相談できる相手になります
- 医療ソーシャルワーカー——通院先にいる場合、医療と生活・仕事をつなぐ役割を担ってくれます
経済面の制度としては、病気で働けない期間の生活を支える仕組み(健康保険の傷病手当金など)や、一定の状態にある場合の年金の仕組み、身体障害者手帳といったものがあります。第4回で触れた指定難病の医療費助成や介護保険もあわせて、使える可能性のあるものは複数あります。
ただし、これらは要件や手続きが細かく、改定もされます。ここで一般論を読んで自己判断するより、上に挙げた相談先で「自分の場合はどうか」を確認するほうが、はるかに確実です。「まだ大丈夫だから」と後回しにせず、早めに一度つないでおくことをおすすめします。
働き方を変えることも、つながり続けることも──選択肢は一つではない
工夫や制度を使っても、いまの働き方を続けることが難しくなる時期は来るかもしれません。そのとき、どうか「働き方を変えること=負け」だとは考えないでください。
勤務時間を短くする、職種を変える、責任の重さを調整する、雇用の形を変える。これらはすべて、働き続けるための手段です。全部を抱えたまま無理を重ねて、ある日いっぺんに続かなくなるより、早めに形を変えて長く続けるほうが、結果的に得るものは大きくなります。
そして、仕事だけが社会とのつながりではありません。第4回で「孤立は、心も体も一緒に細らせる」と書きました。これは私が現場で何度も見てきた、まぎれもない実感です。
趣味の集まり、地域の活動、ボランティア、患者会や当事者のコミュニティ、オンラインでの交流。役割があること、予定があること、会う人がいること——これらは「余暇」ではなく、機能を保つための土台の一部です。運動を続けやすいのも、誰かと一緒に行っている人です。
もし外出のハードルが上がっているなら、それは相談の合図です。「出かけたいのに出かけられない」理由が、歩きにくさなのか、トイレの不安なのか、疲れやすさなのか、人目が気になるからなのか。理由が特定できれば、たいてい対処の方法があります。一人で結論を出さず、主治医の先生やリハビリの専門職に、その困りごとをそのまま伝えてください。
まとめ──ここだけは押さえておきたいこと
- 診断は仕事を辞める理由にはならない。治療が整うまで、判断を急がない
- 病名を職場に伝える義務は原則としてない。誰に・どこまで・いつ伝えるかは分けて考えてよい。産業医や保健師は守秘義務のもとで相談できる入口になる
- 伝えるときは「できないこと」ではなく「こうすればできること」を軸に話す。あわせて「症状には波があり、意欲とは関係がない」ことを共有しておく
- 配慮は具体的に頼める。時間帯の調整、在宅勤務、作業方法の変更、席や導線の見直し、業務の再配分
- 運転は自己判断しない。薬の眠気や症状の影響があるため、必ず主治医の先生に相談する
- 難病相談支援センター、ハローワークの難病患者就職サポーター、障害者就業・生活支援センター、産業医、医療ソーシャルワーカー——困る前につないでおく
- 働き方を変えるのは後退ではなく、長く続けるための手段。仕事以外の社会参加も、機能を保つ土台になる
働くことについての相談を受けるとき、私がいつもお伝えしているのは「一人で決めないでください」ということです。辞めるかどうかを一人で抱えて決めてしまう前に、使える手立てを一通り並べてみてください。並べてみると、思っていたより選択肢があることに気づくはずです。
参考情報
- 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
- 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。