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第3回「パーキンソン病の診断」──どうやって診断されるのかをやさしく解説

2026.09.03
はじめに読む10選

「血液検査ひとつで分かるんですか」——診断のことを尋ねられるとき、いちばん多い質問です。答えは「いいえ」です。パーキンソン病には、これ一つで白黒がつく決定的な検査が、いまのところ存在しません。

この事実を知ると、不安になる方がいます。「じゃあ、この診断は当てにならないのか」と。けれど実際はその逆です。医師は、患者さんの話と体の動きから、たくさんの手がかりを組み合わせて診断にたどりつきます。検査はその判断を助ける道具として使われます。この記事では、その「たどりつき方」を順にお伝えします。仕組みが分かると、診察室で自分が何を伝えるべきかも見えてきます。

「決定的な一つの検査」は、まだない

パーキンソン病の診断は、臨床診断と呼ばれる方法でつけられます。これは、医師が問診(症状の聞き取り)と診察(実際に体を動かして確かめること)を通して、総合的に判断するやり方です。

「検査で数値が出ないなら、あいまいなのでは」と感じるかもしれません。しかし神経の病気では、この方法が診断の中心になることは珍しくありません。医師が診察で確かめているのは、教科書に書かれた症状の有無というより、症状の出方・組み合わせ・広がり方といったパターンです。そこには血液検査の数値には表れない情報がたくさん含まれています。

なぜ決定的な検査がないのか。理由のひとつは、第1回でお伝えした脳の変化——ドパミンを作る神経細胞の減少やαシヌクレインの蓄積——を、生きているあいだに直接その場所で確かめる手段が、まだ確立されていないことにあります。研究の世界では、血液や脊髄液、皮膚などから病気の手がかりをつかむ方法(バイオマーカーと呼ばれます)の開発が進められていますが、日常の診療で誰にでも使える確定検査には至っていません。

ですから、診察の際に医師が体を動かしたり、歩いてみるよう促したり、一見関係なさそうな生活の話を聞いたりするのは、すべて理由があってのことです。時間をかけて診てもらうこと自体が、この病気では診断の精度に直結します。

医師が診ているのは、動きの遅さを軸にした「組み合わせ」

診断の出発点になるのは、動きの遅さ・小ささです。第2回で「無動・寡動」としてお伝えした症状です。これが確認されたうえで、じっとしているときのふるえや筋肉のこわばりが加わっているか——この組み合わせが、診断を考える土台になります。

そして医師がとくに注目するのが、左右差です。パーキンソン病では、体の片側から症状が始まり、しばらくはそちら側のほうが強い、という経過をとることが多いためです。「右手だけ動かしにくい」「歩くとき左腕だけ振れていない」といった非対称さは、重要な手がかりになります。

もう一つ、診断を強く支える手がかりがあります。それはドパミンを補う薬(レボドパ)に、はっきり反応するかどうかです。この薬で動きやすさが明らかに改善するなら、それは「ドパミンの不足が症状の背景にある」という推定を裏づけることになります。実際の診療でも、この反応の確認が診断の重要な一歩として使われます。薬そのものの話は、第5回でくわしく取り上げます。

ただし、症状がまだ軽い時期は、これらの手がかりがはっきりしないことがあります。ふるえが目立たないタイプの方、症状が「なんとなく疲れやすい」「肩が重い」といった形でしか出ていない方では、最初の受診で診断がつかないことも珍しくありません。整形外科や心療内科を経て、しばらくしてから脳神経内科にたどりつく方もいます。回り道をしたように感じるかもしれませんが、それは決して珍しい経過ではありません。

逆に言えば、こうしたパターンに当てはまらない場合、医師は「別の病気かもしれない」という可能性を慎重に検討します。そこで登場するのが、次に見る検査です。

画像検査の役割は「見つける」より「見分ける」

ここが多くの方に誤解されているところです。パーキンソン病の診断で行われる画像検査は、パーキンソン病を「見つける」ためではなく、ほかの病気と「見分ける」ために使われることが多いのです。

代表的なものを挙げます。

  • 頭部のMRIやCT——脳梗塞や脳の水のたまり(水頭症)など、パーキンソン病と似た動きにくさを起こす別の原因がないかを確認するために行われます。パーキンソン病そのものは、これらの画像では基本的に写りません。「MRIで異常なし」と言われたことは、診断が否定されたという意味ではないのです。
  • ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DATスキャン)——薬剤を使って、脳の線条体にドパミンを届ける神経の働きが減っていないかを画像で見る検査です。パーキンソン病では取り込みの低下が見られます。ただし、これも「パーキンソン病だけ」に見られるものではないため、単独で診断が確定するわけではありません。
  • MIBG心筋シンチグラフィ——心臓に分布する自律神経の状態を見る検査です。パーキンソン病では取り込みが低下する傾向があり、よく似た別の病気との見分けに役立つことがあります。

いずれも、医師が診察で組み立てた見立てを補強したり、修正したりするための道具です。検査が主役ではなく、診察が主役——この順序を知っておくと、「検査をしてくれない」という不安も、「検査で異常なしと言われた」という戸惑いも、だいぶ整理できるはずです。

似ているけれど違う病気がある——だから時間をかけて確かめる

動きの遅さやこわばりは、パーキンソン病以外の病気でも起こります。これらをまとめてパーキンソン症候群と呼びます。脳の別の部位の変化によるものや、薬の影響によるもの、脳血管の病気によるものなど、原因はさまざまです。

なかでも見落としてはいけないのが、薬の影響で起きているものです。胃腸の調子を整える薬や、精神科・心療内科で使われる薬の一部には、ドパミンの働きを抑える作用を持つものがあります。それによって、パーキンソン病とよく似た動きにくさが現れることがあるのです。このタイプは、原因になっている薬を医師の判断で調整することで改善する可能性があります。だからこそ、飲んでいる薬をすべて伝えることが決定的に重要になります(自己判断で薬をやめるのは危険です。必ず処方した医師に相談してください)。

医師は診察のなかで、「パーキンソン病らしくない特徴」がないかを確認しています。たとえば、ごく早い時期から転倒を繰り返す、進み方が異常に速い、左右の差がまったくない、目の動きに特徴的な制限がある——こうした所見があると、別の病気を念頭に置いた検討が必要になります。

ここは誤解を招きやすいので、はっきりお伝えします。これはご自身で判定するためのリストではありません。当てはまるかどうかを一人で考えると、不必要な不安を抱えることになります。あくまで「医師はこういう点も見ているのだ」という理解にとどめてください。気になることがあれば、その不安ごと主治医の先生に持っていくのが正解です。

そしてもう一つ大切なこと。診断は、一度で終わりではありません。経過を見ていくなかで、当初の診断が見直されることもあります。これは医師が間違えたということではなく、時間の経過そのものが最も確かな情報になるという、この領域の性質によるものです。診断がつくまでにしばらくかかったとしても、それは慎重に診てもらえているということでもあります。

どうしても納得がいかないとき、あるいは説明が十分に得られないと感じるときは、セカンドオピニオンを求めることもできます。パーキンソン病を多く診ている脳神経内科(神経内科)にかかることは、それ自体が診断の質を上げる選択です。

診察を最大化する、4つの準備

診察が主役ということは、そこで医師が受け取れる情報の量と質が、診断を左右するということでもあります。ご本人ができる準備は、意外に大きな力を持ちます。実際に役立っている4つを挙げます。

  • 症状の記録を持っていく——いつから、どんな症状が、どんな場面で出るのか。動きにくい時間帯はあるか。短いメモで十分です。第2回でもお伝えしましたが、「なんとなく調子が悪い」より「夕方に動きにくい日が週の半分ほど」のほうが、はるかに多くを伝えられます。
  • 動画を撮っておく——症状は診察室で都合よく出てくれるとは限りません。歩き出しでつまずく様子や、ふるえが出ている場面をご家族に撮ってもらっておくと、医師にとって非常に有用な情報になります。
  • 飲んでいる薬をすべて伝える——ほかの病気で使われている薬の影響で、パーキンソン病に似た症状が出ることがあります。お薬手帳を持参し、サプリメントも含めて伝えてください。ここは診断を左右する重要なポイントです。
  • できればご家族と一緒に行く——寝ているあいだの様子や、表情や声の変化、以前と比べてどうかは、周囲のほうがよく気づいています。ご本人が自覚しにくい部分を補ってもらえます。

診断を「医師にゆだねるもの」ではなく「一緒に組み立てるもの」と捉えると、診察の時間の使い方が変わってきます。

まとめ——ここだけは押さえておきたいこと

  • パーキンソン病の診断は、問診と診察をもとにした臨床診断が中心。これ一つで確定する決定的な検査はまだない
  • 診断の土台は「動きの遅さ・小ささ」に、ふるえやこわばりが組み合わさっているかどうか。体の左右差も重要な手がかりになる
  • MRIやCT、DATスキャン、MIBG心筋シンチは、多くの場合「見つける」ためではなく、ほかの病気と「見分ける」ために使われる。検査より診察が主役
  • 似た症状を起こす別の病気(パーキンソン症候群)があり、経過のなかで診断が見直されることもある。自己判定はせず、不安は主治医の先生へ
  • 症状の記録・動画・服薬情報・家族の同席という4つの準備が、診断の精度を確実に高める

診断がつくことは、レッテルを貼られることではありません。名前がついた瞬間から、治療とリハビリという具体的な手立てを使えるようになります。診断は終わりではなく、対策の出発点です。

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参考情報

※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。

リモネック株式会社 代表取締役CEO

認定理学療法士(神経筋障害) LSVT-BIG認定Therapist

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