パーキンソン病は、脳の中で「体を動かす指令」をなめらかに伝える仕組みが、少しずつ働きにくくなっていく病気です。手のふるえや動作の遅さといった症状が知られていますが、その正体は「意志が弱いから」でも「年のせい」でもありません。脳の中で起きている、はっきりとした変化が背景にあります。
診断を受けたばかりの時期は、「これからどうなるのか」が見えず、不安がいちばん大きくなりがちです。この記事では、パーキンソン病という病気の全体像を、いま分かっていることと、まだ分かっていないことを区別しながら、できるだけ誠実にお伝えします。まずここを押さえておくと、この先の治療やリハビリ、生活の話がぐっと理解しやすくなります。
「体のアクセル」がかすれていく病気
私たちが「立ち上がろう」「歩こう」と思ったとき、その意志は脳から体へ、いくつもの中継地点を通って伝わります。その中継のなかで大切な役割をはたしているのが、ドパミンという物質です。ドパミンは、脳の神経どうしが情報をやりとりするときの「橋渡し役」で、なかでも「動きをなめらかに、ちょうどよい大きさに調整する」働きに深く関わっています。
パーキンソン病では、このドパミンを作り出している脳の一部の神経細胞が、少しずつ減っていきます。ドパミンを作る細胞が集まっている場所は、脳の奥のほうにある黒質(こくしつ)と呼ばれる領域です。
黒質で作られたドパミンは、すぐ隣にある線条体(せんじょうたい)という、体の動きを調整する中継地点へと送り届けられます。黒質の細胞が減ると、この線条体に届くドパミンが不足し、「動き出す」「なめらかに動かす」という調整がうまくいかなくなります。
イメージとしては、車のアクセルのつながりが少しずつかすれていく感じに近いかもしれません。エンジン(体そのもの)が壊れているわけではないのに、「動かそう」という指令が伝わりにくくなる。だから、力が入らないのではなく、力を「うまく出す」ことが難しくなる——これがパーキンソン病の動きにくさの本質です。
ここで大切なのは、これは気持ちの問題ではない、ということです。「やる気がない」ように見えてしまう場面があっても、それは脳の調整機能の変化によるもので、本人の意欲や努力の問題ではありません。この理解は、ご本人にとっても、支えるご家族にとっても、出発点になります。
なぜドパミンを作る細胞が減るのか——「まだ分かっていない」を正直に
実は、手のふるえや動作の遅さといった動きの症状が表に現れるころには、すでに黒質のドパミンを作る神経細胞のかなりの割合が失われていると考えられています。その割合には研究によって幅があり、単一の確定した数値はまだ示されていませんが、いずれの推定でも「症状が出はじめる前から、脳の中では長い時間をかけて変化が進んでいる」ことは共通しています。
では、なぜその大切な神経細胞が減っていくのでしょうか。ここは、多くの方がいちばん知りたいところであり、そして医学的にまだ完全には解明されていない部分でもあります。
現在わかっている手がかりのひとつが、αシヌクレイン(アルファシヌクレイン)というたんぱく質です。これはもともと誰の脳にもあるありふれたたんぱく質ですが、パーキンソン病では、これが本来とは違う形に変化して固まり、神経細胞の中にたまっていくことが知られています。この固まりはレビー小体(しょうたい)と呼ばれ、パーキンソン病の脳に見られる特徴のひとつとされています。
ただし、「αシヌクレインがたまること」が原因の引き金なのか、それとも変化の結果として現れるものなのか、その因果の全体像はまだ研究が続いている段階です。一本の研究や一つの学説で「これが原因だ」と言い切れる病気ではありません。遺伝的な体質、加齢、環境要因など、複数の要素が重なって発症すると考えられていますが、多くの方では「これといった単一の原因」を特定できないのが実情です。
「原因がはっきりしない」と聞くと不安になるかもしれません。しかし裏を返せば、パーキンソン病は特定の一つの失敗や不摂生のせいで起きる病気ではない、ということでもあります。ご自身を責める必要はまったくありません。
サインは「動き」だけではない
パーキンソン病というと、手のふるえを思い浮かべる方が多いかもしれません。たしかに、じっとしているときに手足がふるえる症状(静止時のふるえ)は代表的なサインのひとつです。ほかにも、動作が遅く小さくなる、筋肉がこわばる、歩き出しの一歩が出にくい、といった「動き」に関する症状が知られています。
ただ、近年とても重視されるようになってきたのが、動き以外に現れる症状です。たとえば、便秘、においを感じにくくなる、眠っているときに夢の内容に合わせて大声を出したり体が動いたりする、気分の落ち込み、疲れやすさ——こうした症状は、動きの症状よりも早い時期から現れることがあると報告されています。
つまりパーキンソン病は、「手足の病気」というより「脳から始まり、体のさまざまな働きに関わる病気」だと捉えるほうが実際に近いのです。症状の出方は一人ひとり大きく異なり、同じ診断名でも経過はさまざまです。ここで挙げた症状がすべて出るわけでも、同じ順番で進むわけでもありません。
なお、それぞれの症状については、このシリーズの第2回で運動症状・非運動症状に分けてくわしく取り上げます。ここでは「動きだけの病気ではない」という全体像だけ、頭の片隅に置いておいてください。
先にほどいておきたい、よくある誤解
診断直後は、断片的な情報に触れて不安が膨らみやすい時期です。ここで、とくに広まりやすい誤解をいくつか整理しておきます。
- 「遺伝する病気なの?」——多くのパーキンソン病は、親から子へ直接受け継がれるものではありません。ごく一部に遺伝的な要因が強く関わるタイプが知られていますが、全体から見れば例外的です。家族が発症したからといって、自分や子どもが必ず発症するわけではありません。
- 「人にうつるの?」——うつることはありません。感染症ではないため、周囲の人にうつす心配は不要です。
- 「認知症のことなの?」——パーキンソン病と認知症は別のものです。経過のなかで認知面の変化が現れることはありますが、診断された時点で「イコール認知症」ではありません。ここを混同すると必要以上に不安になってしまうので、切り分けて理解しておくことが大切です。
- 「もう動けなくなるの?」——進行のしかたは人によって大きく異なります。治療やリハビリを続けながら、長い年月にわたって仕事や趣味を続けている方は数多くいます。診断=すぐに動けなくなる、ではありません。
誤解をほどくことは、それ自体が大切な治療の一部です。正しく知ることで、必要のない不安を手放し、必要な行動にエネルギーを向けられるようになります。
進行する。でも「付き合っていける」病気
パーキンソン病は、時間とともにゆっくり進んでいく病気です。この事実は、誠実にお伝えしておかなければなりません。一方で、いま強くお伝えしたいのは、「進行する」ことと「なすすべがない」ことは、まったく別だということです。
そして、これは決してまれな病気ではありません。日本では、およそ1,000人に1人が、パーキンソン病とともに暮らしているとされています。さらに65歳以上に限れば、およそ100人に1人という割合になり、高齢になるほど身近な病気になります(難病情報センター)。同じ病気と向き合う仲間は、全国にたくさんいます。
パーキンソン病は、症状をやわらげ、生活の質を保つための手立てがいくつもある病気です。不足したドパミンの働きを補う薬による治療は、多くの方で動きやすさを大きく改善します。そして薬と並ぶもう一つの柱が、運動やリハビリです。体を動かし続けることが、機能を保つうえで重要な役割をはたすことが、多くの研究で示されてきています。
理学療法士として日々多くの方と接するなかで、私が繰り返し実感しているのは、「続けている方は、驚くほど長くご自身らしい生活を保っている」ということです。もちろん個人差はありますし、「必ずこうなる」と約束できるものではありません。それでも、診断を受けたその日から、できることは確かにあります。
大切なのは、一人で抱え込まないことです。主治医の先生、リハビリの専門職、そして同じ病気とともに歩む仲間や家族——支えてくれる存在とつながりながら、自分のペースで付き合っていく。パーキンソン病は、そういう向き合い方ができる病気です。
まとめ——ここだけは押さえておきたいこと
- パーキンソン病は、脳でドパミンを作る細胞が減り、「動かす指令」をなめらかに伝えにくくなる病気。力そのものではなく「力の出し方」の調整が難しくなる
- 原因はまだ完全には解明されておらず、複数の要因が重なると考えられている。自分を責める必要はない
- 症状は動きだけでなく、便秘・においの変化・睡眠・気分など多岐にわたり、出方は一人ひとり違う
- 遺伝・感染・認知症といった誤解は、切り分けて理解することで不要な不安を減らせる
- 進行する病気だが、薬とリハビリという手立てがあり、「付き合っていける」病気である
まずはこの全体像を持っておくことが、この先の一歩一歩を落ち着いて選んでいくための土台になります。
参考情報
- 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
- 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。