パーキンソン病の症状と聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは「手のふるえ」でしょう。けれど実際に当事者の方やご家族から寄せられる困りごとは、ふるえよりもむしろ、「一歩目が出ない」「声が小さいと言われる」「よく眠れない」「便秘がつらい」といった、もっと幅の広いものです。
パーキンソン病の症状は、大きく動きに現れる症状(運動症状)と、動き以外に現れる症状(非運動症状)の2つに分けて捉えられます。この記事では、その両方を地図のように整理してお伝えします。あらかじめお伝えしておきたいのは、ここに挙げる症状が全部出るわけではないということです。出方も順番も、一人ひとり大きく違います。「自分に当てはまるものはどれか」を確かめる材料として読んでいただければ十分です。
症状は「動き」と「動き以外」の二階建てでできている
かつてパーキンソン病は、ふるえや動きにくさといった「動きの病気」として理解されてきました。診断の手がかりも、いまも運動症状が中心です。
しかし近年は、便秘やにおいの変化、睡眠の問題、気分の落ち込みといった、動き以外の症状もこの病気の一部として重視されるようになりました。第1回でお伝えしたとおり、パーキンソン病は「手足の病気」ではなく「脳から始まり、体のさまざまな働きに関わる病気」です。症状を二階建てで捉えると、その全体像がぐっとつかみやすくなります。
そしてもう一つ大切なのは、ご本人にとってつらい症状が、必ずしも運動症状とは限らないということです。診察室では「歩きにくさ」の話が中心になりがちですが、暮らしの質をいちばん下げているのは便秘や疲れやすさ、眠れないことだったりします。だからこそ、動き以外の症状も遠慮なく主治医の先生に伝えてよいのです。
運動症状——よく知られた4つのサイン
動きに現れる症状として、代表的なものが4つあります。順に見ていきましょう。
- ふるえ(振戦〈しんせん〉)——パーキンソン病のふるえは、じっとしているときに出て、動かそうとすると目立たなくなることが多いという特徴があります。片方の手や足から始まることが多く、緊張したときに強くなる方もいます。ただし、ふるえがまったく出ないタイプの方も少なくありません。「ふるえがないからパーキンソン病ではない」とは言えないのです。
- 筋肉のこわばり(筋強剛〈きんきょうごう〉)——関節を他の人が動かそうとすると、ゴムのような抵抗を感じる状態です。ご本人の自覚としては、肩や首、背中の「重さ」「張り」「痛み」として現れることがよくあります。肩の痛みで整形外科を受診し、そこからパーキンソン病が見つかる方もいます。
- 動きの遅さ・小ささ(無動〈むどう〉・寡動〈かどう〉)——動き出すまでに時間がかかり、動き自体も小さくなっていく症状です。これはとても幅広く現れます。書く文字がだんだん小さくなる、表情が乏しく見える、声が小さくかすれる、まばたきが減る、歩くときの腕の振りが小さくなる——すべて同じ根っこからきています。ご本人は普通にしているつもりなのに、周囲から「元気がない」「怒っているの」と誤解されやすいのが、この症状のつらいところです。
- 姿勢やバランスの不安定さ(姿勢保持障害)——前かがみの姿勢になりやすく、方向転換や押されたときにふらつきやすくなります。これは4つのなかでも、比較的経過が進んでから現れることが多い症状です。診断されたばかりの時期から必ず出るものではありません。
この4つがそろって出るわけではなく、どれが目立つかも人によって違います。また、多くの方では体の左右どちらかに強く出るという特徴があり、これは診断の手がかりのひとつにもなっています(診断については第3回でくわしく取り上げます)。
「歩けない」のではなく「歩き出せない」
歩行に現れるサインは、当事者の方がもっとも困り、そして周囲からもっとも誤解されやすい部分です。ここは少していねいに見ておきたいところです。
代表的なものがすくみ足(フリージング)です。歩き出そうとしても一歩目が出ない、足の裏が床に張り付いたように感じる、という状態です。特徴的なのは、いつでも起きるわけではないという点です。狭い場所を通るとき、方向転換するとき、急いでいるとき、人に見られていると感じたときに起きやすくなります。逆に、広い場所ではすっと歩ける方も多いのです。
そのほか、一歩の幅が小さくなる小刻みな歩き方、前かがみのまま歩みが速くなって止まりにくくなる歩き方などが知られています。
ここで知っておいていただきたいのは、これは「筋力がなくて歩けない」のではないということです。第1回でお伝えした「力が入らないのではなく、力をうまく出すことが難しくなる」という話と、まったく同じ構造です。実際、すくみ足が出ている方でも、階段は意外にすっと上れたり、音楽や号令のリズムに合わせると歩きやすくなったりすることがあります。この「リズムがあると動きやすい」という性質は、リハビリの重要な手がかりになっています(第6回で取り上げます)。
ただし、すくみ足や姿勢の不安定さは転倒につながります。急がないこと、通り道に物を置かないこと、あわてて方向転換しないこと。こうした環境と動き方の工夫が、そのまま安全につながります。転倒が増えてきたと感じたら、我慢せず主治医の先生やリハビリの専門職に相談してください。
見えにくいけれど、暮らしに響く「非運動症状」
動き以外に現れる症状は、外から見えにくいぶん、ご本人が一人で抱えてしまいがちです。しかし暮らしの質に与える影響は決して小さくありません。代表的なものを挙げます。
- 便秘——非運動症状のなかでもとくに多く、動きの症状よりずっと早い時期から現れることがあると報告されています。「年のせい」で片づけられがちですが、この病気と関わりのある症状です。
- においを感じにくくなる(嗅覚の低下)——ご自身では気づきにくく、家族から「食べ物の傾向が変わった」と指摘されて初めて分かることもあります。
- 睡眠の問題——寝つきや途中で目が覚めることのほか、眠っているあいだに夢の内容に合わせて大声を出したり、体が動いたりすることがあります(レム睡眠行動障害)。ご本人は覚えていないことが多く、隣で眠るご家族が先に気づく症状です。
- 立ちくらみ(起立性低血圧)——立ち上がったときに血圧がうまく調整されず、ふらつく状態です。転倒の原因にもなるため、急に立ち上がらない、こまめに水分をとるといった工夫が助けになります。
- 排尿の変化——回数が増える、夜間に何度も起きる、といった変化が現れることがあります。
- 痛み・こわばり・疲れやすさ——肩や腰、下肢の痛みや、休んでも抜けない疲労感を訴える方は多くいます。
- 気分の落ち込み・不安——診断による心の負担とは別に、病気そのものと関わる症状としても現れます。
- 意欲の低下(アパシー)——「何もする気になれない」という状態です。ここはとくに強調しておきたいのですが、これはなまけや性格の問題ではなく、症状のひとつです。ご家族が「やる気の問題」と受け取ってしまうと、双方が苦しくなります。
これらの症状は、診察の限られた時間のなかでは話題にのぼりにくいものです。「言っても仕方がない」「関係ないだろう」と黙ってしまう方が本当に多い。けれど、対応の工夫や相談先がある症状も含まれています。気になっていることは、どうか遠慮なく主治医の先生に伝えてください。
同じ一日のなかでも、症状は揺れる
パーキンソン病の症状を理解するうえで、もっとも見落とされやすく、そしてもっとも重要なのがこの点です。症状は、日によって、そして同じ一日のなかの時間帯によっても変わります。
朝はスムーズに動けたのに午後は動きにくい、あるいはその逆。薬による治療を受けている方では、薬がよく効いている時間帯と、効き目が切れてきた時間帯とで、動きやすさがはっきり変わることがあります。また、薬の影響で、自分の意思とは関係なく体が動いてしまうことがあり、これはジスキネジアと呼ばれます。こうした薬との関係については、第5回でくわしく取り上げます。
症状の揺れは、睡眠不足や疲労、緊張、体調の変化にも影響されます。つまり「昨日はあんなに歩けたのに、今日は歩けない」というのは、この病気ではまったく珍しいことではないのです。
ここを知らないと、周囲から「本当は動けるのに甘えているのでは」と受け取られてしまうことがあります。これは当事者の方をとても深く傷つけます。揺れること自体が、この病気の性質である——この一点を、ぜひご家族や職場の方と共有していただきたいと思います。
そして、この揺れを味方につける方法があります。それが記録です。どんな症状が、いつ、どんな場面で出たのか。動きやすい時間帯はいつか。簡単なメモでかまいません。診察室で「なんとなく調子が悪いです」と伝えるのと、「夕方に動きにくくなる日が週の半分ほどあります」と伝えるのとでは、主治医の先生が受け取れる情報量がまるで違います。記録は、限られた診察時間をご自身のために使うための、いちばん確実な道具です。
まとめ——ここだけは押さえておきたいこと
- 症状は「動きに現れるもの(運動症状)」と「動き以外に現れるもの(非運動症状)」の二階建てで捉える
- 運動症状の代表はふるえ・筋肉のこわばり・動きの遅さと小ささ・姿勢やバランスの不安定さ。4つがそろうわけではなく、ふるえが出ない方もいる
- すくみ足は「歩けない」のではなく「歩き出せない」状態。場面によって起きやすさが変わり、リズムがあると動きやすくなることがある
- 便秘・においの変化・睡眠・立ちくらみ・痛み・意欲の低下などの非運動症状は、外から見えにくいぶん伝わりにくい。遠慮せず主治医の先生に伝えてよい
- 症状は日によって、時間帯によって揺れる。それは甘えではなく病気の性質。記録することが診療の質を変える
症状の名前を知ることは、不安を増やすためではありません。自分の身に起きていることに名前がつくと、対処の相談ができるようになります。それが、この地図をお渡しした理由です。
参考情報
- 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/169
- 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
※本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針を示すものではありません。治療や生活上の判断は主治医にご相談ください。